犬の近親交配!遺伝疾患や障害は?
公開日:2024/11/08 / 最終更新日:2024/11/08
優性遺伝と劣性遺伝
「優性遺伝」と「劣性遺伝」という言葉を
耳にしたことがある方も
いらっしゃるかもしれません。
2017年、日本遺伝学会は
「優性」を「顕性」、
「劣性」を「潜性」とすると
発表をしました。
以下は、
遺伝学用語改訂の際の
発表文を抜粋したものです。
遺伝学用語改訂について
「優性、劣性」は
遺伝学用語として
長年使われていたが、
優・劣という
強い価値観を含んだ
語感に縛られている人たちが
圧倒的に多い。
疾患を対象とした臨床遺伝の分野では
「劣性」遺伝のもつマイナスイメージは
深刻でさえある。
一般社会にもすでに定着している
用語ではあるが、
この機会に、
歴史的考察もしなかがら、
語感がより中立的な
「顕性、潜性」に変更することになった。
しかし、まだ
「顕性、潜性」という言葉が
一般には浸透していないため、
今回は従来通り、
「優性、劣性」という語彙を使って
お話を進めていきます。
メンデルの法則
優性遺伝
「メンデルの法則」という言葉を
聞いたことがあると思います。
「つるつるのお豆と
しわしわのお豆がうんぬんかんぬん…」というものです。
これが今日の遺伝学の基礎となっており、
これからお話する
近親交配にまつわることにも
深く関わってくるものなので、
少しだけ
メンデルの法則のお話をさせてください。
メンデルの法則には、
三つの法則が含まれています。
そのうち、
今回は「優性の法則」と
「分離の法則」を使います。
「遺伝子には強いのと弱いのがいるよ!」
ということだけ
覚えていただければOK!
まず、
以下の図をご覧ください。
図には「A」と「a」の
二つの遺伝子があります。
Aの遺伝子は
犬を短毛にし、
aの遺伝子は
犬を長毛にする特性を持っているとします。
(図でaaの遺伝子を持っているのは長毛の犬です)
この二つのうち、
Aのほうが強くて、
Aが一つでもあると
aの遺伝子の持っている特性は
(長毛になる)
現れないと思ってください。
つまりこの図では、
「aaという遺伝子を持たないと
長毛にならない」ということです。
AAの遺伝子を持つ短毛の犬と、
aaの遺伝子を持つ長毛の犬に
子どもが生まれた場合、
子どもは全員Aaという遺伝子を
持つことになります。
全員短毛の子どもが
生まれるということですね。
これを
「優性遺伝」といいます。
メンデルの法則
劣性遺伝
では次に、
生まれてきた子どもたち同士を
掛け合わせたら
どうなるのかを見てみましょう。
先ほどお話をした通り、
Aという遺伝子が一つでもあれば
短毛の犬になります。
そして
aの遺伝子が二つになったときに
初めて
長毛の犬が生まれます。
今回は
母親も父親も短毛でしたが、
子どもには
長毛の犬が生まれました。
これを
「劣性遺伝」といいます。
そしてこの場合の
aの遺伝子のことを
「劣性遺伝子」といいます。
「劣性」と聞くと、
「何か劣っているのか」と
思われる方もいるかもしれませんが、
先にお話したように、
遺伝子には
強いのと弱いのがいます。
そして、
その弱い遺伝子が
劣性遺伝子なのです。
決して
劣っている遺伝子
というわけではありません。
犬の近親交配とは
現在犬種として確立されている
犬において、
どうしても避けられない問題に
「近親交配」があります。
近親交配は
「インブリード」とも呼ばれ、
遺伝学的に関係のある
個体同士を
掛け合わせることを意味します。
つまり、
- 「父親と娘」
- 「母親と息子」
- 「祖父と孫娘」
- 「祖母と孫息子」
- 「兄弟同士」
- 「従兄弟同士」
などというように、
遺伝学的に関係のある犬同士を
掛け合わせることです。
こうして生まれてきた子どもは
「近親交配個体」と呼ばれます。
近親交配個体には、
奇形や感覚障害といった、
先天的な問題が
生じる場合があります。
先天的であるということは、
「生まれたときに備わっている」、
あるいは
「生まれつきにそうである」ということを
意味していますので、
もしなんらかの奇形や
機能障害をもって
生まれてきた場合には、
生まれてきた後に
どんなことをしても
根本的に
それを変えることはできません。
つまり、
近親交配がおこなわれるということは、
なんらかの悪影響が及ぼされる
可能性があるということなのです。
しかし、
その悪影響は必ずしも
100%及ぼされるわけではありません。
以下の図を
ご覧ください。
この図では、
「父親A」と「娘C」の間に
「子どもD」ができています。
この場合に、
AがEと、eという対立遺伝子(※)を
持っていたとします。
対立遺伝子は、
母親と父親から
一つずつ子どもに受け継がれるものです。
Aからは、
CにもDにも
対立遺伝子が受け継がれます。
そして、
CからもDに
対立遺伝子が受け継がれます。
この場合に、
AからもCからも
同じ対立遺伝子が
受け継がれる確率は、
(つまり、EとE、あるいはeとeになる確率)
「EE」と「ee」で
12.5%ずつです。
逆にいえば、
75%の確率で異なる遺伝子が
くるということになります。
同じ対立遺伝子が
受け継がれた場合に、
子どもに
悪影響が及ぼされることになります。
つまり、
先ほど申し上げた
先天的な問題が
生じることになるのです。
これはあくまでも
確率の問題ですので、
ある一腹の子どもたちにおいて、
全員が健康で全く害を
及ぼしていない場合も
あるでしょう。
あるいは逆に、
全員に
何らかの悪影響が
及ぼされるということも
考えられます。
近親交配と致死遺伝子
遺伝子の中には、
「致死遺伝子」(※)
というものがあります。
この遺伝子を
一つだけ持っている場合は、
致死性が発現しません。
つまり
健康に暮らしていくことができます。
しかし
二つ持っている場合、
死産や流産を招いたり、
生まれても
早くに亡くなってしまう
可能性があります。
致死遺伝子は、
何か毒性をもっているもの
というわけではありません。
突然変異を起こして、
その作用が異常になることで、
犬の発生や生存が
困難になり、
その結果その犬は
亡くなってしまうというものです。
「致死遺伝子を持っていない犬を
探せばいいことじゃないか」と
思われるかもしれませんが、
それは
簡単なことではありません。
なぜならば、
致死遺伝子を
一つだけ持っていれば、
健康に暮らしているからです。
外見上は、
致死遺伝子を
全く持っていない個体と
差がありません。
繁殖をすることによって
初めて発覚することも
少なくないのです。
と言うと、
「致死遺伝子は劣性なの?」と
思われる方がいるかもしれませんが、
実は
致死遺伝子の多くは
優性の遺伝子です。
致死遺伝子を
一つだけ持っている状態において、
ある部分に異常が現れ、
致死作用が劣性として
作用するようになります。
そして
致死遺伝子を
二つ持った個体において、
初めて
死に至らせることになるのです。
犬の近親交配を防ぐには
近親交配を防ぐためには、
従来とは全く別の
血統と掛け合わせることが
必要になります。
とはいえ、
近親交配の鎖を
断ち切ることは
容易なことではないように
思われる方もいるでしょう。
では、
どうやったら
近親交配の鎖を
断ち切ることができるのか、
以下に
一例をお見せしましょう。
この図は、
FとGという両親から生まれた
子どもたちを
「兄弟掛け」したものです。
兄弟の横に
「F1」と書いてあります。
このFは
「Filial」という単語の
頭文字です。
Filialには、
「親から何世代目の、子どもの、子孫の」
という意味があります。
ちなみに、
私は遺伝学関係以外で
この単語が使われているところを
見たことがありません。
最初の子どもの世代が
F1です。
F1で兄弟掛けをしてできた
F2の個体は、
近親交配個体です。
しかし
ご安心ください。
この青の血統とは全く別の
ピンクの血統の個体を
掛け合わせることにより、
F3の個体は
非近親交配個体となります。
このように
近親交配というのは、
手のひらの
表と裏のようなものです。
一世代を経ることですぐに
ひっくり返すことができるのです。
動物園で飼育されている
野生動物の中には
こうして
近親交配をやむを得ずおこなうことで
時間を稼ぎ、
次の世代へとつなげていく
努力がなされています。
近親交配は
悪いものかもしれません。
もし
回避できるなら、
ぜひそうしたほうが良いでしょう。
しかし中には、
どうしても、
どう頑張っても
近親交配を避けられない
場合があります。
そんなとき、
このピンクの個体のことを
思い出してください。
そして、
F2の個体を
健康な個体として
立派に育成し、
ピンクの個体を
きちんと見つけ出して
交配をさせ、
近親交配ではない個体を
次世代へと
つないでいってもらえたらと思います。
遺伝の知識を身に付けて犬の健康管理を
犬の近親交配を
防ぐことができるのは、
繁殖を管理する
私たち人間です。
日本では、
犬の繁殖を規制する
法律がありません。
海外では、
ブリーダーさんが
免許制になっているのに対し、
日本では
登録制となっており、
遺伝学的管理や
繁殖個体の取り扱いは
ブリーダーさんに
委ねられている状況です。
そのため、
おひとりおひとりのオーナーさんが、
きちんと
知識を身に付ける必要があります。
大切な家族の一員が、
将来困難な病気を
発症しないためにも、
きちんとした
遺伝学的管理をおこなっている
ブリーダーさんを選定し、
近親交配をできる限り避けた
交配のもとに生まれた犬を
お迎えするよう
心掛けましょう。
関連記事
犬のブリーダーって!優良・悪質の違いは?
まとめ
- 遺伝学会は2017年、「優性」→「顕性」、
「劣性」→「潜性」と表現を変更した - 遺伝学的に関係のある個体同士を交配すると、
子犬は先天性障害をもって生まれてくる可能性がある - 繁殖をおこなう際は遺伝に関する知識を身につけ、
近親交配はなるべく避ける
どんな遺伝子を持って
生まれてきたとしても、
「命」に変わりはありません。
優れているわけでも
劣っているわけでもないということを、
どうか
忘れないでください。
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