犬の臍ヘルニア(さいヘルニア)デベソとの違いって?
公開日:2024/04/05 / 最終更新日:2024/04/05
犬の臍ヘルニアとは
臍ヘルニアを
理解するためには、
まず「臍」と「ヘルニア」の
それぞれについて
正しく理解することが必要です。
犬の臍ヘルニアの「臍」とは
「臍」は音読みで「さい」、
訓読みで「へそ」と読みます。
「へその緒」というのは、
胎児がお母さんの体の中で
成長していくために、
お母さんの胎盤と
つながるための組織で、
医学的には「臍帯」
(さいたい)と呼ばれます。
この臍帯は、
カモノハシとハリモグラ以外の哺乳類や、
アカシュモクザメや
メジロザメなどの
一部の魚類に存在しています。
臍帯の中には、
- 卵黄管
- 臍静脈
- 尿膜茎
- 臍動脈
といった
大切な血液などを運ぶ
管構造が交通しています。
胎児は、
この臍帯を通じて
お母さんから栄養や
酸素をのせた血液を運んでもらって
成長します。
胎盤は出産(分娩)と同時に
お母さんから剥がれ落ち、
胎盤と胎児をつないでいた
臍帯も出産後にちぎれて
一緒に外に出ていきます。
必要性が無くなった臍帯は
ミイラ化・瘢痕(はんこん)化し、
胎児側の
臍帯輪(さいたいりん)と呼ばれる穴も
周囲の筋肉や繊維組織によって
ふさがれていきます。
その穴がふさがって
名残となったものを
臍瘢痕(さいはんこん)と呼び、
これが一般的に
臍(へそ)と呼ばれています。
犬の臍ヘルニアの「ヘルニア」とは
「ヘルニア」という言葉は、
ラテン語の
「ヘルノス(Hernos)」に由来します。
ヘルノスは
木の枝の若芽のことです。
古代人は、
体の一部が、
芽が出るように
むくむくと盛り上がってくる病態が
木の枝に若芽が出かけて
膨らんでいる状態に似ていることから
「ヘルニア」と呼び、
現在でも
この名称が使用されています。
医学事典によると、
ヘルニアとは
「大網膜、脂肪組織などの組織や子宮、
腸管などの臓器が
体壁の先天的あるいは
後天的の欠損部、裂隙(れつげき)を通じて、
本来存在する部位より脱出した状態」
と定義されています。
とてもざっくりと言い換えると、
「ヘルニア」とは、
「体のどこかの壁に穴が開き、
そこから中に存在している
組織が出てきてしまった」
という病態のことを示しています。
「ヘルニア」の解りやすい特徴として、
- 本来存在するべき壁が存在していない。
- 圧力のかかった側に突出する。
- 突出している組織は通常、
還納性(もとのところに戻せる仕組み)が存在する。 - 嵌頓(かんとん。内臓が外に出て戻らなくなった状態のこと)。
などが挙げられます。
これが、認められないものは
「ヘルニア」とは違う
病態と考えられます。
またヘルニアという名称は
欠損や裂隙(れつげき)の
大きさに関係せず、
すべて「ヘルニア」と呼ばれています。
犬の臍ヘルニアの概要
「臍」と「ヘルニア」を
それぞれ理解していただいたところで、
本題の
「臍ヘルニア」を説明します。
臍ヘルニアは、
臍部に認められる
臍帯輪が開いたままの状態のことを
指します。
このような「おへそ」の穴の閉じない
犬の赤ちゃんは、
全体の数パーセントに認められます。
痛みを伴わず、
好発犬種でもない場合は、
放置しておいても
生後6カ月の間に
自然閉鎖することが
多く認められます。
臍ヘルニアは
「デベソ」と呼ばれることもありますが、
「デベソ」=「臍ヘルニア」ではありません。
臍ヘルニアの定義でも書きましたが、
還納性
(この場合は、「デベソ」を押すと
お腹の中にもどる仕組み)が認められないものは、
「そもそもヘルニアの可能性が低い」か、
後からお話する
「緊急性の高いヘルニア病変」と
考えられるため注意が必要です。
デベソについて
臍部にみられる膨らみは、
一般的に
「デベソ」と呼ばれています。
臍ヘルニアも
「デベソ」に含まれているのですが、
他の理由でも
「デベソ」と呼ばれる状態になります。
「デベソ」になる理由は
大きく分けて三つあります。
- 臍ヘルニア
- 脂肪組織
- 穴は閉じたけれども臍が窪みきらずに
膨らみが残っている「臍突出症」
2については、
「おヘその名残が脂肪組織に置き換わった」か、
「そもそもお腹の中の脂肪組織が
遺残(いざん)した」という
原因が考えられます。
3については
いくつかの形があり、
真ん中だけ膨らみが残るパターンや
周りが飛び出ているパターンによって
名称が異なります。
1は治療が必要な場合があり、
それ以外の
多くのデベソは
治療の必要がないということを
覚えていただけるといいと思います。
犬の臍ヘルニアが出やすい犬種・年代
臍ヘルニアは、
発症時期により
大きく「先天性(生まれつき)」と
「後天性(生後)」の二つに
分類することができます。
遭遇頻度は
「先天性臍ヘルニア」のほうが
圧倒的に高いため、
臍ヘルニアと言えば、
先天性臍ヘルニアのことを
指していることが
多いと思われます。
どちらにしても、
臨床症状や治療方法に
大きな違いは認められないため
臨床上で区別をすることはありませんが、
動物の健康保険の
約款の理解や
好発犬種の理解をする際に
必要な知識となりますので、
合わせて説明します。
先天性臍ヘルニア
「先天性臍ヘルニア」は
胎児期6週齢ごろに、
胎児の腹直筋や腹膜の欠陥
発育遅延が原因で起こります。
多くは遺伝的であり、
そのような
遺伝子を持っていると
言われる犬種は、
- エアデールテリア
- ペキニーズ
- ポインター
- ワイマラナー
- シーズー
- キャバリア
- 秋田犬
- アメリカンコッカースパニエル
- バセンジー
などが挙げられます。
性差による
発生頻度は認められないとされていますが、
発生頻度の高い品種では
雌に多く認められるという
報告もあります。
ある種の遺伝的な病気を持つ
イングリッシュ・スプリンガー・スパニエルでは、
臍ヘルニアの発生頻度が高くなり、
他にも潜在(せんざい)
精巣症(陰睾:いんこう)を有する
犬にも頻繁に認められるため、
一定の遺伝子病・遺伝病との
関連も考えられています。
後天性臍ヘルニア
「後天性臍ヘルニア」は、
動物ではほとんど経験しません。
もっとも多く経験される
後天性臍ヘルニアは、
分娩時、臍帯の過度の牽引により
発生したものと考えられます。
また分娩時に
臍帯を腹壁近くで切除すると、
臍ヘルニアを
生じることがあるようです。
症状のない
先天性臍ヘルニアが、
成長の過程で肥満や外傷、
妊娠などの
腹圧上昇といった要因により
発症することも経験します。
これは厳密な意味での
「後天性」ではありませんが
「先天性」とも言いがたく
分類の悩むところです。
このような例外もありますが、
生まれた後に発症した
臍ヘルニアを
「後天性臍ヘルニア」と呼んでいます。
発生時期を区別する用語であるため、
ヒストリーを知らず、
発症したものを見た目で
「先天性」「後天性」を
区別することは難しいと考えます。
犬の臍ヘルニアの臨床症状および診断方法
初期症状
繰り返しになりますが、
本来あるべき
「臍瘢痕(さいはんこん)=へそ」が認められず、
還納性(押すとお腹の中に戻せる)のヘルニアが
認められる状態を
臍ヘルニアと呼んでいます。
これは一般的に無痛性、無熱感であり、
犬種にもよりますが
大きさも小型犬であれば
豆粒大からクルミ大のもの、
大型犬では
リンゴ大にまで
達することがあります。
手術後の腹壁ヘルニア
開腹手術の後や
避妊手術の後に
縫い目が閉鎖せずに
「ヘルニア」を起こす事もよくあります。
この場合は
原因が異なりますので
臍ヘルニアではなく、
「腹壁(ふくへき)ヘルニア」と言います。
ただし、
症状や対処法、
治療法の考え方に大きな違いはありません。
末期症状
臍ヘルニアの内容物は通常、
「その穴に見合った量」の
お腹の中の脂肪
(腹壁脂肪・大網・腸管膜の脂肪など)ですが、
この量が変化したり、
内容物が脂肪以外の腸管や膀胱などの
臓器に変化したりして
脱出してしまうと
還納性を失い、
そのまま締め付けられた
状態に陥ります。
この状態を
嵌頓(かんとん)と呼んでいます。
内容物の変化は、
急激な腹圧の変化(事故や妊娠・出産など)や
穴の大きさの変化に続いて
起こることが多いようです。
一度、嵌頓したヘルニア
(嵌頓ヘルニア)に至ると、
締め付けられている組織は
血行阻害を起こして
硬化・変色します。
結果、痛みと熱感を伴い、
その臓器の機能も失うため、
元気や食欲がなくなり、
生命の危機につながります。
多くの場合、
緊急手術などによって
治療を施さないといけないような
緊急的な対応が必要となります。
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臨床検査
ほとんどの臍ヘルニアは
身体検査で
診断可能であるため
特殊な検査が必要となる場合は少なく、
腸管の嵌頓や
通過障害が疑われる場合に
実施されます。
- 腫瘍
- 膿瘍
- 血腫
- フレグモーネ
- 肉芽腫(にくがしゅ)
などとの鑑別をするために、
レントゲン検査、
超音波検査、
生検などが実施されています。
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最終的には
獣医師の判断となりますが、
飼い主さんでも
わかる場合があります。
臍の中をグッと指で押して、奥に穴の淵を感じる。
腹圧がかからないと凹んでいるときがある。
体勢によって膨らみが変わる。
などが確認された場合は
臍ヘルニアの可能性が高いと考えます。
犬の臍ヘルニアの治療
痛みを伴わない場合で
好発犬種でもない場合は、
放置しておいても
生後6カ月の間に
自然閉鎖することが
多く認められます。
臍ヘルニアを手術するか否かは、
悪化する可能性の高さに
依存しています。
その動物の腸管の太さが
ヘルニアの穴よりも
大きな場合は
危険度が高いと評価します。
小さな穴や
臨床症状が伴わない場合は、
避妊手術などを含めた
その他の手術時に
併せて処理するか、
手術せずに
注意深く経過観察することを
選択します。
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還納性(かんのうせい)臍ヘルニア
手術はヘルニアの周りの組織を
剥離(はくり)して
ヘルニア嚢
(のう:ヘルニア内容が入っている袋状の膜)を切開し、
ヘルニアの内容物を
お腹の中に戻した後、
腹膜を縫合して
穴をふさぎます。
極端に大きなヘルニアでなければ
手術難易度も高いものではなく、
再発することはまずありません。
嵌頓性(かんとんせい)臍ヘルニア
ヘルニア内容物が
お腹の中の臓器の場合は、
臓器の血行が回復可能か否かが
大きな焦点となり、
その程度によって
手術内容も大きく異なります。
そもそも嵌頓するほどの
ヘルニアは穴も大きいため、
その閉塞にも
技術が必要になると思われます。
発生もまれですが、
治療の難易度も増すと考えられます。
治療期間
臍ヘルニアの治療期間は
手術後
1週間から10日で
抜糸となるので、
それまでかと思います。
術後、傷口が開いてしまったり
治りが遅い場合は
その限りではありません。
犬の臍ヘルニアの手術費用
費用については、
病状の具合によっても
だいぶ開きがあると思います。
症状が無く
去勢手術や避妊手術と
一緒に行う場合は、
追加料金として
2~5万円程度です。
症状があり、
例えば
臓器がヘルニアのところから
出ている場合には
10万円以上はかかってくると思います。
手術前の検査
(血液検査やレントゲンなど)や
麻酔料、入院費用なども含めると
10万円ではおさまらない
病院の方が多いと思います。
ただ費用に関しては
病院によって異なりますので、
参考にしていただければと思います。
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犬の臍ヘルニアの予後
術創の管理に問題なければ、
多くの場合、
予後は良好です。
嵌頓性臍ヘルニアの予後は
その動物の状態、
臓器の状態に左右されるため
一概に言えません。
まれに縫合糸に
拒絶反応を示してしまうような
体質の場合は、
数回の再縫合が必要なこともあります。
まとめ
犬の臍ヘルニアは獣医師に相談しましょう
犬の臍ヘルニアの原因は、
へその緒があった部分が
うまく閉じなかった事に
由来します。
生後6カ月を過ぎてからの
自然治癒は少なく、
手術で治すことが
根治治療となります。
ただし、
多くの場合は悪化せず、
経過観察をしながら、
手術時期を相談することが可能です。
かかりつけの獣医師と連携して
治療していただけるといいでしょう。
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