犬の腎不全!原因・治療・予後は?
公開日:2024/06/03 / 最終更新日:2024/06/03
犬の腎不全とは
腎不全は、
急激に生じる「急性腎不全」と
じわじわ悪化して
腎不全に至る
「慢性腎不全」に分けられます。
急性腎不全は
治る可能性がありますが、
慢性腎不全は
治ることはなく、
- 「病気の進行を遅らせる」
- 「症状を緩和する」
といった
治療になります。
腎不全という言葉は、
本当は病名ではなく、
腎臓の機能が大きく低下し、
体内に毒素が貯留し、
尿毒症という症状
(食べない、吐く、重度だと昏睡、けいれん等)
を示す状態を表す用語です。
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さまざまな
腎臓の病気がありますが、
遅かれ早かれ
いずれの病気も
最終的に
腎不全という「状態」に至ります。
急性腎不全は
予防することは難しく、
腎不全を発見したら、
速やかに
適切な対処を行う必要があります。
慢性腎不全の場合には、
腎不全に至る前に、
病気のより
早期の段階で見つけ、
進行を遅らせることが
重要になります。
犬の腎不全を知る前に腎臓の構造を知ろう
腎臓は
左右1つずつある
豆状の臓器です。
腎臓は
「ネフロン」という構造が
たくさん集まってできています。
ネフロンは
「糸球体」と「尿細管」から成ります。
糸球体は
血管のかたまりで、
コーヒーフィルターのように
血液をこします。
こされた血液(原尿)は
尿細管の中を通っていく間に、
体に必要な栄養素や
ミネラル、水分を回収します。
最終的に、
不要な老廃物と
それを捨てるのに必要な
最小限の水分を尿として排出し、
尿管を通って
膀胱にいきます。
老廃物を
尿として捨てるという
役割以外にも、
腎臓は体内の水分量を
調節しています。
たくさん水分を
摂ってしまった場合には
尿の水分量を増やし、
水分を摂取できず
体に水分が足りない状況では
尿の水分量を減らします。
他にも、
血圧を調節したり、
体内のミネラルや
血液の酸性度の調節、
血液の産生などの
役割を持ちます。
腎不全になりやすい犬種・年齢
急性腎不全の発生には
犬種、年齢で差はありません。
慢性腎不全も
特定の犬種で多い
ということはありませんが、
高齢(8~10歳以上)で
みつかることが多いです。
これは
発症が中年齢くらいであっても、
腎不全に至るまで
数年かかるため、
明らかな
腎不全の症状を示すころには
高齢になっているというわけです。
慢性腎不全と診断されるよりも
はるかに前から、
何の症状も示さない時期から
腎臓病を発症しているのです。
犬の急性腎不全について
急性腎不全は、
突発的に発症する病気です。
原因や診断方法、
治療方法、予後について
説明します。
犬の急性腎不全の原因
急性腎不全の原因は
いくつかありますが、
一番多い原因は
腎臓に毒性を持つ
薬剤や食品、
植物を摂取してしまうことです
(腎毒性物質といいます)。
よく人間用の風邪薬を
誤って食べてしまったり、
ぶどう・レーズンを
摂取してしまったりすることがあります。
他には、
感染症(レプトスピラ症、腎盂腎炎)や
尿管・尿道閉塞といった
病気によっても発症します。
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毒性のあるものを
食べてしまった場合には、
処置が早ければ早いほど
発症を抑える、
あるいは
軽くすることができるので、
すぐに病院に行くべきです。
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犬の急性腎不全の診断方法
急性腎不全の診断は、
血液検査で
腎臓の機能を反映する指標
(尿素窒素[BUN]やクレアチニン[Cre])が
著しく上昇していることを中心に、
尿検査や画像検査で診断されます。
尿路の閉塞が
原因であることを
はっきりさせるためには、
画像検査を
必ず受ける必要があります。
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犬の急性腎不全の治療方法
急性腎不全の治療では、
迅速な処置が
何より重要です。
ただし、
死亡率が
非常に高い病気であり、
必ず治るわけではありません。
処置が遅れれば、
救命率は低下します。
毒性のあるものを
食べてしまった場合には、
食べたばかりであれば、
- 「吐かせる」
- 「血管から点滴を行い少しでも薄める」
- 「排泄を早める」
といったことをします。
尿管・尿道閉塞では
とにかく閉塞を解除する
処置が必要です。
状況によっては
外科手術を必要とします。
どんな原因でも
急性腎不全では、
血管から点滴を
しっかり行うことが必要です。
急性腎不全の犬の多くは
脱水しています。
水分が足りなくなれば、
腎臓に巡る血液も不足し、
傷ついている腎臓の細胞を
さらに破壊してしまい、
腎不全を
悪化させてしまいます。
そのため、
迅速に点滴を行い、
脱水を改善させる必要があり、
通院で
皮下点滴だけの治療では
十分な処置ができず、
悪化してしまうこともあります。
また、
急性腎不全では
腎臓が尿を作ることが
全くできなくなることがあります
(乏尿や無尿といいます)。
この場合には、
過剰な点滴はむしろ
むくみや肺に水がたまる
などの問題を引き起こします。
点滴は
脱水した分だけ入れ、
それ以上の過剰な点滴は
避けなければなりません。
乏尿・無尿の場合には、
血液透析(人工透析ともいいます)を
行わなければ
助けられないことが多いです。
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犬の急性腎不全の予後
急性腎不全は
死亡率が高い病気です。
特に、
腎毒性物質が原因で
急性腎不全に
なってしまった場合、
そして
乏尿・無尿の場合には
救命率は著しく下がります
(血液透析を受けたとしても
救命率は20-40%と言われています)。
そのため、
腎毒性物質を
摂取しないようにするといった
予防策を取ることが
最も重要ですし、
急性腎不全に
なってしまった場合には
迅速に病院で
処置を受ける必要があります。
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犬の慢性腎不全
続いて、
慢性腎不全の原因や
診断方法、治療方法、
予後について説明します。
犬の慢性腎不全の原因
慢性腎不全の原因は
さまざまであり、
明らかにできないことも
少なくありません。
それは、
腎臓病の発症から
腎不全に至るまでが
非常に長い期間を要するため、
腎不全の症状
(食べない、元気がない、痩せてきたなど)を
示す頃には
すでに原因が
わからなくなっていることが
多いためです。
急性腎不全で挙げた原因は
慢性腎不全の
原因にもなります。
腎臓の一部が
胎児のときから成長しておらず、
機能が低下しているという
生まれつきの
腎臓病であることもあります。
犬では、
「糸球体疾患」という
血液をろ過する糸球体が
炎症を起こしてしまうことで
腎臓病になるというタイプが
比較的多いです。
その原因は
明確でないことも多いですが、
- フィラリア症
- 子宮蓄膿症
- 副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
といった病気が原因で
発症することもあります。
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糸球体疾患の特徴は、
たんぱく質が
尿に漏れ出ることです。
腎臓の機能が
低下するよりも
はるかに早期から
「たんぱく尿」が出てきます。
糸球体疾患の早期では
何の症状がなくても、
血液検査で異常がなくても、
たんぱく尿が認められます。
定期的な尿検査を受けることが
早期発見になります。
特に
糸球体疾患は5歳以上の犬で
多いですので、
中年齢以降では
健康診断に
尿検査を含めることが必要です。
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犬の慢性腎不全の診断方法
慢性腎不全に至ってしまうと、
- 「食べない」
- 「吐いてしまう」
- 「痩せてくる」
といった症状が出ます
(急性腎不全よりも軽度なことが多いですが)。
腎不全に至る前のより
早期の腎臓病では、
症状はほとんどありません。
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腎臓の機能が
1/3程度まで低下して
初めて、
尿が薄く、多くなり、
飲水量が増える
といった症状がでてきます。
血液検査では、
腎臓の機能を調べますが、
腎臓の機能が
1/3~1/4まで低下しないと
検査値に
異常は出てきません。
最近では、
いくつかの
新しい腎機能の指標
(シスタチンCやSDMA)が
出てきていますが、
これらの新規のマーカーでも
発見できるのは、
腎臓の機能が
1/3~1/4まで低下してからです。
現時点で、
犬や猫の医療では
「半分くらいの腎機能の低下」を
発見する方法はありません。
尿検査では、
尿の濃さや
たんぱく尿の有無を調べます。
尿が薄くなるのは
腎臓の機能が
1/3程度まで低下してからです。
たんぱく尿は
すべての腎臓病で
認められるわけではなく、
基本的には
糸球体疾患でのみです。
画像検査は
腎臓の
構造的な異常を検出します。
正常な腎臓は
表面がつるっとした
豆型を示しますが、
慢性腎不全では
表面がボコボコし、
変形していきます。
犬の腎臓病の病期と大まかな治療
犬の慢性腎不全の治療方法
慢性的な腎臓病では、
基本的に
腎臓の機能が
進行的に低下していきます。
これを完全に止めることは
難しいです。
ただし、
たんぱく尿、高血圧、
血液中のリンやカルシウムが
高くなる合併症、
脱水といったことがあると
腎臓病の進行は
早くなります。
逆に言えば、
これらがなければ
進行は遅いことが多いです。
もちろん、
腎臓病の原因によって、
あるいは
その他の合併症
(感染症など)があれば
進行が早まることもあります。
腎臓病の治療の根幹は
その病気の進行を
遅らせることにあります。
原因を除去し(可能であればですが)、
たんぱく尿、高血圧、
血液中の
リンやカルシウムが高くなる合併症、
脱水といった
進行要因を抑えることが
治療になります。
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特に、
たんぱく尿は
腎臓病を進行させる
強力な因子ですので、
テルミサルタンやエナラプリルといった
薬剤を用いて
たんぱく尿を少しでも
減らすことが必要です。
必要に応じて、
高血圧に対しては
降圧剤の投与
(テルミサルタンやアムロジピンなど)、
リンを下げる治療
(腎臓病用療法食、リン吸着薬)を
行います。
尿が薄く、
多尿状態になっている場合には、
脱水を起こさないために、
十分な水分摂取が
必要です。
こまめな給水、
ウェットフードの使用や
ドライフードを
ふやかすことが効果的です。
慢性腎不全の状態に
至ってしまうと、
別な治療が必要になります。
- 食欲の改善(食欲増進剤)
- 嘔吐の治療(制吐剤)
- 体内に蓄積する老廃物
(尿毒素といいます)の軽減
といったことに加え、
合併症として
貧血が生じた場合には
造血ホルモン
(エリスロポエチン)および
鉄剤の投与を必要とします。
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食欲がないと
脱水しやすくなり、
脱水してしまうと
腎臓にめぐる血液が少なくなり、
腎臓の機能が
さらに低下します。
そのため、
すぐに食欲を
十分に回復させられない場合には、
水分補給の補助として
点滴(皮下または血管内)を
必要とします。
皮下への点滴(皮下補液)で
使用する点滴剤は
血管内のミネラルと
同等にした液体を使用する
必要があります。
この溶液は
投与しても細胞の中には入らず、
本当の意味での
脱水を治すことにはなりません。
皮下点滴だけを
延々と続けてしまうことも
多いですが、
食べられているのであれば
不必要です。
逆に
ほとんど食べられなくなった場合にも、
皮下補液では
状況の改善につながないことが
多いです。
ある程度食
べられるようになるまで、
入院下で
血管内に点滴するか、
あるいは
胃ろうチューブなどで
直接水を飲ませる他ありません。
人間と同じように、
血液透析(人工透析)を
行うことはできます。
しかし、
人の医療と異なり、
高額医療費の
軽減制度があるわけではなく、
その割には
同等の医療費がかかるため、
持続的に行うのは
コスト的に
かなり難しいです
(数年行うとすれば、
数千万円はかかると思います)。
また、
血液透析のゴールは
腎移植です。
しかし、
獣医療では
腎移植の選択肢はありません。
ゴールなき高額医療は、
飼い主、
患者の双方に
負担を強いるだけなのではないかと
私は考えています。
犬の慢性腎不全の予後
腎臓病の予後は
病期の重症度によって
異なりますが、
数カ月から数年です。
原因、
合併症の有無で
大きく変わるため、
すべての患者に
一概に決定することは難しいです。
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犬の腎不全に良い食事、サプリメント
急性腎不全では、
緊急的な状態にあり、
食事・サプリメントで
良い悪いもありません、
乱暴な言い方をすれば
「それどころじゃない」ということです。
腎臓病に
「良い」食事というのはありません。
体内に蓄積する
老廃物を減らすために
たんぱく質を減らし、
血中のリンを下げるために
リンが少ない食事にすることです。
リンは
たんぱく質を多く含む
食品に含まれますので、
肉や魚などは
避けるべきです
(もちろん、食べる量によりますので、
一口も食べてはダメというわけではありません)。
たんぱく質が少なすぎるご飯は
筋肉量を減らし、
痩せてしまいます。
早期の腎臓病や
かなり悪化した腎不全の患者では、
市販の腎臓病用療法食では
筋肉量が低下してしまう
恐れがあります。
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犬に必要なタンパク質の量って?
ただし、
たんぱく質の
多量の摂取は
腎臓病を悪化させることが
知られています。
そのため、
高たんぱくな食事は避け、
適度なたんぱくの摂取を
必要とします。
進行してしまった犬の
慢性腎不全では、
血中のカリウムが
上昇していきます。
カリウムが高くなった場合には
カリウムを減らした
食事にすべきですが、
残念ながら
腎臓病用を含めて
市販されているドッグフードで
カリウムを制限してあるものは
ありません。
この時期になったら、
野菜や果物は
避けたほうが良いと思います。
すべての腎臓病に効く
サプリメントなどありません。
腎臓病用として販売されている
サプリメントには、
状況によっては
腎臓病に
悪影響を及ぼすこともありますので、
サプリメントを使用すべきかどうかは
獣医師の支持に
従ってください。
まとめ
犬の腎不全は特に早期発見が重要です
腎不全は
急性と慢性で
様相が大きく異なるため、
同じように
考えることができません。
しかし、
共通していることは
早期から対応することが
重要だということです。
日常的に摂取するものに
気をつけてもらい、
定期的な健康診断
(特に尿検査)を
受けてもらうことが重要です。
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