犬の乳腺腫瘍!症状や、かかりやすい犬種って?

公開日:2024/04/08 / 最終更新日:2025/01/24
犬の乳腺腫瘍とは
犬には、
胸からお腹にかけて
左右5対のお乳
(乳腺)があります。
その乳腺の一部が腫瘍化し、
しこりができる病気が
乳腺腫瘍です。
昔から動物病院で
よく遭遇する病気であり、
とくにメス犬では
最も多い腫瘍の一つです。
乳腺腫瘍には
良性と悪性があり、
悪性の癌である確率は
約50%と言われています。
良性の乳腺腫瘍は
ゆっくり大きくなりますが、
転移はしません。
悪性の腫瘍には、
リンパ節から
胸やお腹へと転移するタイプもあり、
命に関わります。
乳腺腫瘍の治療には
- 外科手術
- 放射線治療
- 化学療法
などがあり、
どの治療を行うかは
腫瘍の種類や
広がり方によって決めます。

炎症性乳癌とは
炎症性乳癌は、
乳腺に激しい疼痛(とうつう)と
炎症を伴う
悪性の乳腺腫瘍です。
発生はまれで、
犬の乳腺腫瘍全体の
10%以下とされています。
炎症性乳癌は
乳腺に熱感・腫脹を伴い、
一見すると
乳腺炎のようにもみえますが、
急速に進行してしまいます。
広い範囲にわたる
浮腫(ふしゅ:むくみ)や疼痛は、
癌細胞が乳腺深くに浸潤し、
乳腺や皮膚のリンパ管
リンパ節に入りこんで生じています。
また、
化膿性皮膚炎を
併発する場合も多々認められます。
このように癌細胞が
さまざまな領域に
散在しているため、
初診時に
すでに肺転移を起こしていることも
珍しくありません。
予後は非常に悪く、
手術をしても
治癒することが難しい
腫瘍です。

乳腺腫瘍にかかりやすい犬種・年代
比較的犬種を問わず
発生する腫瘍ですが、
欧米では
- プードル
- チワワ
- ヨークシャーテリア
など、
小型犬に多く発生すると
言われています。
日本で飼育頭数と
腫瘍発症比率を比較した研究でも、
純血種の
小型犬に多い可能性が
指摘されています。
また近年の報告では、
ミニチュア・ダックスフンドでの
発症報告が増えています。
また、
乳腺腫瘍は
中高齢犬に多く発生します。
発症年齢のピークは
9歳前後とされています。

犬の乳腺腫瘍の症状
初期症状
皮膚のしこりを触って調べる事を
「触診」といい、
乳腺腫瘍では
「触診」が重要です。
犬の乳腺は
脇の下から胸、
腹部から内股にかけて
広範囲に存在するため、
日頃から良く触っておくことが
とても大切なのです。
多くの腫瘍が
小さいうちに早期発見して
治療を受ければ、
根治することが可能です。
逆に、
急に現れた
大型(3cm以上)のしこりは
悪性の可能性があるため、
再発や転移をする可能性も
考えなくてはなりません。
末期症状
悪性の乳腺腫瘍は、
さまざまな臓器に転移します。
肺転移を起こした場合は、
徐々に咳や呼吸困難が
見られるようになります。
また、
腰のリンパ節に転移すると、
便をしづらくなります。
皮膚の広い範囲に
炎症を起こしてただれてしまうと、
強い痛みを
感じることがあります。

犬の乳腺腫瘍の原因
乳腺腫瘍が起こる原因は
はっきり分かっていませんが、
性ホルモンの影響、
乳腺障害(乳腺炎等)、
肥満によって
リスクが高まることが
報告されています。
中でも、
最も強く関連している
「性ホルモン」の影響については
知っておく必要があります。
乳腺の細胞は
女性ホルモンの影響を受けて
増殖しますが、
その途中で
遺伝子変異を生じると
腫瘍化が始まります。
幼いうちに
避妊手術をすると、
乳腺の
増殖と腫瘍化か゛
抑制されるため、
乳腺腫瘍を予防することが
できると考えられます。
実際に、
若齢時に
避妊手術を行うことで
乳腺腫瘍の発生率が
低下することが
報告されています。

犬の乳腺腫瘍の検査・診断方法
自宅でチェックできること
乳腺にしこりを見つけたら、
下記のことに注意が必要です。
腫瘍の大きさ・形
小さく単発の腫瘍は
良性の可能性が高く、
1cm以下であれば
手術により
ほとんどが根治します。
逆に大きく、
周囲に固着している腫瘍ほど、
悪性の可能性が
高くなります。
成長速度
悪性腫瘍は、
急速に大きくなります。
腫瘍がいつからあるか、
どのくらいの速さで
大きくなっているかを知るには、
自宅での「触診」が
頼りになります。
皮膚の自潰・出血
腫瘍表面の皮膚が破れて
出血したり、
ただれることを
医学用語で
「自潰(じかい)」と言います。
悪性の腫瘍は
急激に大きくなるため、
自潰しやすいのです。
代表的な悪性腫瘍である
「炎症性乳癌」では、
ひどい自潰や水ぶくれ、
広範囲の炎症が見られます。
動物病院でチェックすること
動物病院では、
下記のことに注意をして
検査を進めます。
細胞診
腫瘍の種類や
良性/悪性の仮診断として
用いられます。
乳腺腫瘍の診断では、
良悪診断の正診率が低いため、
あまり重要視されません。
最近では遺
伝子診断を組み合わせた
「マイクロサテライト解析」も
行われています。
コア生検
しこりの一部を取って
病理組織検査を行います。
手術前に
腫瘍の性質を知るためには
必要な検査ですが、
腫瘍の全体像は確認できません。
病理組織検査
確定診断のためには、
手術で摘出した腫瘍の
病理組織検査が必要です。
腫瘍の種類、悪性度、
広がり方など、
多くの情報が得られます。
領域リンパ節の触診
悪性の乳腺腫瘍は、
進行すると
一番近いリンパ節に転移します
(領域リンパ節)。
領域リンパ節は
腫瘍ができた場所によって異なり、
頭側は
わきの下にある腋窩
(えきか)リンパ節、
尾側は
股の付け根にある鼡径
(そけい)リンパ節が
それにあたります。
転移の検査
悪性の乳腺腫瘍は
肺や腹腔内の
リンパ節へ転移します。
肺転移の有無を確認するために
胸のレントゲン検査、
腹部臓器の転移を確認するために、
お腹のエコー検査を行います。
犬の乳腺腫瘍の治療法・予後
基本的には、
外科手術による
腫瘍の切除が
第一に選択されます。
転移していない段階の
腫瘍であれば、
手術によって根治が望めます。
すでに転移してしまっている
腫瘍では、
転移したリンパ節や
肺を切除しても
根治することはできませんが、
痛みや
障害の原因になる腫瘍には
緩和的手術や
放射線治療が適用されます。
また、
手術後の
病理組織学的検査の結果を見て
手術で取り切れない
悪性腫瘍だった場合や、
再発・転移の恐れがある場合には、
抗がん剤の使用を検討します。
外科手術
一般的には
下記の三段階の手術がありますが、
腫瘍の種類や年齢に応じて、
その都度、
手術方法は変わります。
手術費用や入院期間は、
犬の大きさや
しこりの数によって
大きく変わります。
一般的には、1~3の順に
価格は高く、
入院期間も長くなるでしょう。
1、腫瘍切除
小型の腫瘍(可動性)を
くり抜くように切り取る方法です。
良性を疑う腫瘍や
高齢動物の検査などで
行われることがあります。
麻酔時間は短く、
痛みも少ない方法ですが、
乳腺を残して切除するため、
再発の可能性は高くなります。
2、部分~片側乳腺切除
腫瘍を含めて
乳腺組織を切除します。
比較的大きな腫瘍でも
しっかり切除が可能で、
腫瘍細胞の取り残しも
防ぐことが可能です。
切除する広さや
深さを調節することよって、
再発の可能性を
減らすことが出来ます。
どのくらい乳腺を
切り取るかによって、
残存した乳腺に
新しい腫瘍が出来る確率が
増減します。
3、両側乳腺切除
腫瘍を含めた
両側の乳腺を広範囲に切除します。
何度も再発を繰り返す場合や、
多発する
乳腺腫瘍に有効です。
大部分の乳腺を取ってしまうため、
再発や新しい腫瘍の発生リスクは
最低限に抑えられます。
手術の傷が大きいため、
傷が治るまでに
皮膚がつっぱる感じが残ります。
放射線治療
放射線治療は、
手術できない場合に
腫瘍の増大や痛みを抑えたり、
手術後の再発を抑える目的で
行われています。
化学療法
現在、乳腺腺癌には
抗がん剤
「アドレアマイシン」「カルボプラチン」や、
「エンドキサン」と非ステロイド系の
消炎剤「COXⅡ阻害剤」が
使用されています。
いずれも
手術後の
再発・転移を予防するために
使います。
近年では、
新しいタイプの抗がん剤
「分子標的薬」の効果も
期待されています。
ちなみに、
人で使われる
「ホルモン療法剤」は
動物では使用されていません。
犬の乳腺腫瘍の費用・入院期間の目安
乳腺腫瘍の切除範囲によって、
手術の難易度も変わります。
手術内容や入院期間によっても
費用は大きく異なりますので、
一概にはいえませんが、
5万円~30万円
(術前の検査、手術、病理検査、入院など含む)
まで幅があります。
目安としては、
小型犬なら
日帰り手術で5万円、
手術後3日以内の入院であれば
10~15万円くらいになることが
多いようです。
入院期間は、
しこりだけを切除する場合は0~2日、
しこりの周りの
乳腺まで切除する場合は1~3日、
片側の乳腺を切除する場合は
2~7日が目安です。
犬の乳腺腫瘍の予防法
先に述べたように、
若齢時に
避妊手術を行うことで
乳腺腫瘍の発生率が
低下することが報告されています。
犬の避妊手術のタイミングと
乳腺腫瘍発生率

つまり、
避妊手術をしていないメス犬で
約4匹に1匹の割合で
乳腺腫瘍が発生する場合、
初回発情前に避妊すると、
発生率は0.5%
(200匹に1匹)と非常に低くなります。
ただし、
発生した乳腺腫瘍に対して
避妊手術をしても
腫瘍が小さくなることは
ありません。
乳腺腫瘍にかかっている動物での
避妊手術は、
将来の子宮や卵巣の
病気を防ぐ目的と、
乳腺への血液供給を減らして
新しい
乳腺腫瘍の発生を
減らす目的で行われます。
もともと
若齢での避妊手術が一般化している
欧米では
乳腺腫瘍の発生は少なく、
相対的に
アジアの犬の乳腺腫瘍発生率は
ずっと高めであったそうです。
時代とともに
予防的避妊手術が普及して、
日本での乳腺腫瘍の発生率も
減っていくことでしょう。
ただし、
悪性腫瘍の発生率が
0になるわけではありません。
先に述べた通り、
悪性乳腺腫瘍は
ホルモンレセプターが少なく、
性ホルモンの影響だけでない
発がん機構が
発症に関与すると
考えられています。
日々のスキンシップを欠かさず、
定期的に
皮膚の触診をすることが
一番の予防になるかもしれません。
関連記事
犬の健康管理にドッグマッサージ!
高齢犬の場合の犬の乳腺腫瘍
年々、
予防医学の進歩とともに
犬の平均寿命は
延びています。
ある保険会社の調べでは
全犬種の平均余命は
13.4歳でした。
ペットにも
「高齢化社会」が訪れています。
そして、
死因の第一位は
「腫瘍」(11.6%)です。
そんな中、
高齢であっても
積極的に
治療を望む飼い主さまがいる一方で、
しこりに気付いても
高齢だからと治療を諦め、
出血や腫瘍の巨大化など
悪化するまで
動物病院に連れて行かないケースが
あるようです。
高齢犬の場合、
多くは腫瘍以外の
持病を抱えていることも多く、
麻酔のリスクや
治療の副作用を恐れるのでしょう。
また、
長年連れ添った命を
失うことを想像したくない
飼い主さまもいると思います。
どちらも心情的には、
とても理解できます。
ペットの高齢化に伴い、
「どのように別れるか」は
これからしっかり考える
必要があると思いますが、
動物病院に行かないで
諦めるのは
以下の理由から賛成できません。
1,高齢犬でも手術をできる場合がある
高齢でも麻酔をかけられる
「元気なおじいちゃん・おばあちゃん犬」は
たくさんいます。
まずは全身状態をチェックしてもらいましょう。
2,しこりを見つけたらまずは動物病院で診てもらうべき
前述したように
乳腺腫瘍は小さいうちに治療すれば
根治が見込めます。
また乳腺腫瘍の50%は良性ですから、
上手にケアすれば、
そのまま天国まで持って行ける可能性もあります。
3,大きくなったしこりが与える影響
大きくなったしこりは
出血や感染により悪臭を放ったり、
強い痛みを与えてします。
せっかく長生きしても、つらい痛みに耐えさせるのは、
よろしく有りません。
手術できなくても痛みを取る方法を探しましょう。
4,転移による苦しみ
たとえば肺に転移しても、
すぐに呼吸困難を起こすわけではありません。
ほとんどの場合、
犬は症状を訴えず、徐々に感染を引き起こして
二次性の肺炎を起こしてから
呼吸が荒くなったり、咳やタンをはき始めます。
この二次感染を防ぐことで、
残された時間を苦しみから解放して
過ごさせてあげられるかもしれません。
関連記事
シニア犬(老犬)に多い病気!症状や健康診断の準備は?

犬の乳腺腫瘍を防ぐ食事
肥満は、
乳がんの危険性を
高めると言われています。
すでに人の医学では、
閉経後の女性では
BMIが高いと
乳がんの発症が増えることが
確かめられています。
乳がんは、
女性ホルモンである
エストロゲンの影響を受けて
増殖しますが、
閉経後は、
卵巣からのエストロゲンの分泌は
少なくなる一方、
副腎で分泌されるホルモンが
脂肪細胞でエストロゲンに変換されやすいためと
考えられています。
犬でも肥満と
乳腺腫瘍の相関関係や、
ホルモンへの影響が
示唆されていますので、
適正な体型を保つことが
第一です。
食事については、
脂身の多い肉を避け、
飽和脂肪酸を摂り過ぎない事が
重要です。
反面、
不飽和脂肪酸である
ω(オメガ)3脂肪酸は
多くの研究で
腫瘍のリスクを下げる事が
わかっています。
ω(オメガ)3脂肪酸は
マグロなどの魚に多く含まれており、
関節炎予防や認知症予防に
効果があるため、
近年では
シニア用ドッグフードにも
多く添加されています。
犬の乳腺腫瘍に効くサプリメント
現時点で乳腺腫瘍の治療
予防に効果のあるサプリメントは
わかっていません。
人の乳がん診療ガイドラインでも
「乳がんのリスクを減少させる目的で、
サプリメントを服用することは勧められない」
とされています。
犬でも人と同じく、
サプリメントに頼らず、
バランスのよい食事をすることが
大切と言えるでしょう。
ただし、
高齢や併発疾患のために食欲が落ち、
バランスの良い食事が難しい
動物もいます。
その場合には
上記の「ω(オメガ)3脂肪酸」を補助する
サプリメントを与えると
良いかもしれません。

クリル(オキアミ)由来の
オメガ3脂肪酸と
アスタキサンチンを補給できる
ソフトカプセルタイプのサプリメント。
小型犬や猫でも飲みやすい
直径約8.5ミリの小サイズ。
南極オキアミから得られるオイルを
カプセルにしました。
クリルオイルに含まれるオメガ3脂肪酸は
「リン脂質結合型」で、
従来の魚油に比べ親水性が高く、
体内での消化吸収に優れていると
言われています。
ソフトカプセル入りなので
与える前まで酸化の心配もなく、
新鮮長持ちです。
ナチュラルハーベストプチクリルオイル150粒

まとめ
犬の乳腺腫瘍は予防が大切!
犬の乳腺腫瘍は、
発症すると進行が早く、
命に関わる病気です。
メス犬や小型犬など、
発症しやすい犬は
特に注意するとともに、
普段から
愛犬とのスキンシップをとり、
早期発見に努めることが
大切かもしれませんね。

PR



「犬の乳腺炎」カテゴリーの関連記事
「犬の乳腺腫瘍」カテゴリーの関連記事
「犬の乳頭腫」カテゴリーの関連記事
「犬の健康寿命」カテゴリーの関連記事
「犬の健康維持」カテゴリーの関連記事
「犬の大腸炎」カテゴリーの関連記事
「犬の子宮蓄膿症」カテゴリーの関連記事
「犬の尿が臭い」カテゴリーの関連記事
「犬の避妊去勢」カテゴリーの関連記事
「老犬の食事」カテゴリーの関連記事
「育犬ノイローゼ」カテゴリーの関連記事